材料技術が導くOリングの進化。付加価値で新市場を切り拓く NOK(前編)
自動車や産業機械から日常で身近な水道の蛇口まで、さまざまな機械・設備に使われるOリング。目立たない存在ながら、液体や気体など流体の漏れを防ぎ、機械や設備の安定した動作に欠かせない。NOKはOリングを年間50億個生産している。これだけの生産量を支えるのが、優れた技術力、品質管理、開発力だ。精密・Oリング事業部は300種類以上の材料ラインアップと材料の選定ノウハウを持ち、ユーザーの用途や使用環境に合わせた高付加価値製品を提供している。
Oリングの密封理論
NOKは主力のオイルシールで培った材料技術などを生かし、1960年代にOリングの生産を開始。材料配合・設計・成形(生産)・出荷(品質管理)まで一貫した開発生産体制を武器に、自動車向けを中心にシェアを拡大してきた。近年は燃料電池自動車(FCV)などの水素機器関連やAI(人工知能)データセンターなど、新規分野の開拓に向け開発体制を強化している。
Oリングは、その名が表す通り断面が円形のゴム製リングで、主に溝にはめ込んで流体の漏れを防ぐ。Oリングの密封性(シール性)は、押しつぶすことで生まれる反発力と表面の適切な粗さによって保たれる。
Oリングは、主にロッドやピストンなど円筒状の軸部品とハウジング(部材を収めるケース)の組付部分に使われ、溝に装着して固定する。組付けによってOリングが潰されると、軸またはハウジングとの接触面や封止する流体から圧力がかかり、ゴムが変形して溝とゴムの接触面のすき間がなくなる。また、ゴムが元に戻ろうとする力(反発力)によってシール性が高まる。NOKでOリングを担当する精密・Oリング事業部 製品開発部の義経修司副部長によると、こうした力を「セルフシール(自封作用)」と呼び「適切な設計条件では、かかる圧力が強いほどシール性が高まる」という。
もう一つ、表面粗さもシール性を左右する。軸またはハウジングにもOリングにもマイクロメートル(マイクロは100万分の1)単位の凹凸があり、すき間ができると漏れの経路になる。そのため「Oリングをどの程度押しつぶすかという圧縮率と面の粗さが製品設計での重要な要素になる」(義経副部長)。
Oリングの使用条件に対して、接触面を管理する技術・開発力が求められる。
使用環境への対応のカギとなる材料技術
Oリングに必要な特性は、想定される故障モードからも分かる。一般的なゴム材料は使用温度範囲を下回る温度(例えば摂氏マイナス30度)ではゴムが硬化して弾性力が失われ、面圧が下がりシール性が落ちる。反対に耐熱限界(例えば摂氏120度)を超える高温でも元に戻ろうとする力が落ちて(へたり)漏れが発生する。そのため、使用温度の条件に応じて、低温耐性を高める材料や、へたりを抑える材料などを適切に選ぶ必要がある。
また、ゴムは分子レベルのすき間があり、例えば水素だと分子が透過する「透過漏れ」がある。封止する液体によってはゴムが吸収して膨張(膨潤)し、大きく変形したりすき間にはみ出して切れたりする。こうしたOリングの故障を防ぐには、ガスや液体に応じた材料を選択することが重要になる。
NOKは、さまざまな使用環境に適応実績のある豊富な材料を保有する。独自の材料技術によって、使用環境に応じた高付加価値のOリングを開発している。(材料技術については「後編」を参照)
表面処理技術の強み
長年培った材料技術に加え、表面処理にもNOKの強みがある。Oリングの表面に膜厚数マイクロ~20マイクロメートルのコーティングを施す「レアフロン」(四フッ化エチレン樹脂)コーティング処理やシリコーン皮膜処理、サンドショットで微細な凹凸をつくる梨地処理によって非粘着性や低摩擦性を高める。摩擦が減るためOリングを組み込みやすくするために使用するグリスの削減にもつながる。義経副部長は「ゴムは伸び縮みする。その上にコーティングするのは難しい」と言う。シリコーン皮膜はシール性を損なわず非粘着性を高めるほか、部品生産時にパーツフィーダーでリング同士がくっつかず、円筒部材も小さな力で組み込めるため、量産時の効率化にもつながる。
スクィーズパッキンシリーズでさらに幅広いニーズに対応
NOKは、断面が円形のOリングを含む「スクィーズパッキン」として断面が四角の角リング、D字のDリング、X字のXリングも提供している。それぞれ特性が異なり、幅広い用途に対応する。
Oリングは油圧ポンプやエンジンなどに使用される円筒形の部品を中心に幅広く使われる。角リングは平面でのシール性に優れ、同じ寸法ではOリングよりゴムの反発力が強い。Dリングは自動車のトランスミッション(変速機)などに使用される往復動部品に適し、平らな面があることによりねじれを抑えられる。Xリングはブレーキやショベルカーのアーム先端に取り付ける油圧ブレーカなど、往復動や回転する部位に適している。X断面のくぼみ部分にグリスを保つことができるため、潤滑によって摩耗を抑えられる。
ちなみに、Oリングとオイルシールの違いは「Oリングはゴム素材のみ。オイルシールはゴムと金属環との組み合わせで、形状も複雑」(義経副部長)だという。
Oリングは単純な形状のゴム製品に見えて、使用環境に応じた材料選定や設計、品質管理など、さまざまな技術の積み重ねによって性能が決まる。NOKは長年培ってきた材料技術と開発・生産ノウハウで自動車業界を中心に幅広いニーズに対応してきた。後編では、強みの材料技術を生かして取り組む新市場開拓と、さらなる高付加価値化への挑戦を紹介する。(編集:日刊工業新聞社)
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義経 修司
NOK株式会社 精密・Oリング事業部 製品開発部 副部長
NOK入社後、ラバーガスケットやOリングの設計・開発を担当。現在は、Oリングやパッキン等のシール製品の拡販・開発責任者として、製品の新規開発、新規領域への拡販を推進している。
記事内のデータ、所属・役職等は2026年10月現在です。


