船はなぜ長く安全に走り続けられるのか
―“一船一様”で対応するイーグル工業のモノづくりとサービス―
2026年10月1日、NOKとイーグル工業は経営統合し、新たな体制で歩み始めました。
イーグル工業は、1964年にNOKのメカニカルシール製造部門が独立して誕生した企業です。主な事業は、液体や気体の「漏れ」を防ぐメカニカルシールや特殊バルブなどの開発・提供であり、自動車・建設機械、一般産業機械、半導体、舶用、航空宇宙の5分野において顧客層を広げてきました。
その中で、船舶向けのシール装置を中心に、研究開発から製造、メンテナンスまで一貫して手掛ける舶用事業は強みを象徴する事業の1つです。本記事では、世界の海上物流を支えるその技術とサービスの舞台裏をご紹介します。
船の航行と環境保全を担う「船尾管シール装置」
食料や資材、エネルギー資源など、私たちの暮らしに必要な物資の多くは、海を渡って行き交います。一説では、国際貿易における物量の約8割は海上輸送によって運ばれていると言われるほど、船は世界の経済活動を支える存在です※。
こうした海上輸送を担う船は、エンジンの動力をプロペラ軸に伝え、海中のプロペラを回転させて前進します。この軸が船体を貫く部分に取り付けられているのが「船尾管シール装置」です。船外から海水が入り込むのを防ぐとともに、軸を滑らかに回すための潤滑油が海へ流出するのを防ぎます。船の安定した航行と海洋環境の保全、その両方に関わる重要な部品です。
イーグル工業は1968年に船尾管シールを開発し、現在は「KEMEL」ブランドの下、船尾管シール装置をはじめとする舶用製品を展開しています。中でも大型新造船向け船尾管シール装置では、世界トップクラスのシェアを誇ります。全長300~400メートル級の大型輸送船やクルーズ船など、主に総トン数1万トン以上の大型船に採用されている他、高度な技術が求められる特殊船にも使われています。
大型船は一船ごとに船主の意向に沿って仕様が決まることから、船尾管シール装置も、完全オーダーメイド品です。製造に入る前に、営業担当者と設計担当者が仕様書を検証し、造船所とのやり取りを重ねながら、船ごとの要望を設計へ反映しています。主要部品は複数の拠点で製造したのち1カ所に集約し、組み立て、検査、梱包・出荷します。直径が1メートルを超え、重さが1.5トンに及ぶこともある巨大部品は、1台に数百本ものボルトが使われることがありますが、これもすべて熟練の職人の手で組み上げています。
国連貿易開発会議(UNCTAD) Review of Maritime Transport
https://unctad.org/topic/transport-and-trade-logistics/review-of-maritime-transport?utm
イーグル工業が作る船尾まわりの製品
数十年という大型船のライフタイムの安全を支えるデータ管理
船舶ビジネスは、製品を納入して終わりではありません。一般的に、大型船は20~30年にわたって運用されます。その間、過酷な海上環境を航行する船は、およそ5年に1度ドックに入り、大規模な検査やメンテナンスを受けます。ドック入りの際には船尾管シールを点検・整備し、シールリングなどの部品を交換します。
その長い運用期間中、大型船は数年単位で世界中の企業や個人の間を売買されていく特殊な環境に置かれます。日本で造られた船が海外の船主に渡り、さらに別の国の船主へ売却されることも珍しくありません。船の安全な航行に必要な部品やサービスを届け続けるには、船主や船名、船籍国などの情報が変わったとしても船に使われている製品や、これまでの整備の記録を把握できる仕組みが必要です。
そこでイーグル工業では、国際海事機関(IMO)が船舶ごとに付与する固有の識別番号を手掛かりに、搭載製品の仕様、部品の交換履歴、次回メンテナンス時の留意点などをCRM(顧客関係管理)システムで管理しています。データを読み解くことで、「あの船はそろそろドック入りの時期だ」「オーナーが変わったが、引き続き私たちの部品で安全を担保しよう」といった先回りの提案を行い、新造船への納入から数十年間にわたるアフターサービスを実現しています。
24時間365日。グローバルでトラブルに対応する体制
世界中を巡航している大型船は、いつどこでトラブルが起こるか誰にも予測できません。広大な海の中で船を止めることがないよう、イーグル工業は、日本、中国、シンガポール、英国、米国の自社拠点と各国の代理店によるグローバルなサービスネットワークを構築しており、24時間365日、船がどのエリアの海を航行していても迅速にサポートする体制を整えています。例えば、欧州の船主が所有する船に日本近海でトラブルが起きれば、欧州側に入った連絡を日本へ引き継ぎ、現地に近いエンジニアが対応します。
修繕ドックでは、付着した貝殻や汚れを落として古いシールリングを取り外し、専用の治具と接着剤を使って新しいリングを接合します。数ミリの狂いも許されない緻密で過酷な作業です。航行中にオイル漏れなどのトラブルが起きた場合には、船上に足場を組み、船尾を海面から持ち上げた状態での緊急対応を行うこともあります。
次世代の海運を支える環境技術と自動運航対応
現在、海運業界は大きな転換期を迎えています。地政学リスクに伴う航路変更、CO2削減に向けた新燃料船への移行、より厳格化する海洋環境規制など、課題は山積しています。
イーグル工業では環境負荷の低減において、空気を利用して海水の浸入と潤滑油の流出を抑える「船尾管エアーシール」の他、環境対応型の生分解性潤滑油とそれに適合するシールリング材などを開発してきました。
また、船員不足や自動運航の進展を見据え、船尾管シールや軸受の状態を把握するモニタリングシステムの開発にも取り組んでいます。船尾管シールや軸受は、航行中にも状態に応じて船員がメンテナンスする必要がありますが、大型船では船尾管シールがあるエンジンルームまで移動するだけでも時間と労力を要します。不具合の兆候を早期に捉え、適切なタイミングで整備できるようになれば、壊れる前に対処することが可能になり、船員にとっての利便性向上や運航に関わる人員の省人化が期待できます。
こうした技術開発によって新たな事業機会を捉えながらも、一隻一隻の要望に向き合う姿勢は変わりません。イーグル工業の舶用事業は、船の長期にわたる航海と世界の海上輸送を、これからも支え続けます。