材料から設備まで自社開発 メクテックがリードするFPC製造の最前線(後編)
NOKグループのメクテック(東京都港区、伊藤太郎社長)が製造・販売するフレキシブルプリント基板(FPC)は、多様な電子機器の登場とともに、薄さや多層化に加え、さらなる高度な特性が求められている。最近では、FPCの用途として、中華系や韓国系のスマートフォンメーカーが先行するフォルダブルフォン(折りたたみスマートフォン)が注目されている。フォルダブルフォンの画面間を繋ぐヒンジ部分には、数十万回もの屈曲に耐えることができる「耐屈曲FPC」が欠かせない。また通信の高速化や大容量化に伴い、第5世代通信(5G)などで使う高周波に耐えうるFPCも必須だ。メクテックはこうした新たなニーズにも、確かな技術力で応えていく。
材料や構造で何回曲げても切れない
FPCは、スマートフォン以前の携帯電話、いわゆるガラケーから採用されており、通信機器の発展に貢献してきた。最新のフォルダブルフォンは、スマートフォン並みのミニマルさや、タブレット並みの大画面での使用、二画面を利用したマルチタスクが可能な作業効率性の良さから、今後さらなる需要の伸びが期待できる。
FPCの開発や製造に長く携わってきた技術本部グローバル技術統括部の目黒勝史氏は、「メクテックの耐屈曲FPCは、フォルダブルフォンの中国市場において5割以上のシェアを占める。数百万回曲げても『切れない』と評判だ」と誇らしげに語った。
メクテックの耐屈曲性FPCが高シェアである理由は何か。技術本部開発部新材料開発課の伊藤保之課長は「FPCの開発実績が多く、過去の膨大なデータから、屈曲に強いフィルム・銅箔とその特性を引き出す最適な接着剤の組み合わせを見出せること」だと話す。中でも自社開発の接着剤が、FPCの屈曲性を向上できた大きな要因だ。メクテックはFPCメーカーでは珍しく、接着剤などの材料から自社で開発しており、その経験値により必要な物性を引き出し製品化することができる。
また、あえてフィルム間を接着させない中空部分をつくった構造のFPCを製造する技術もメクテックの耐屈曲性FPCの強みだ。この「中空構造」を採用することで、折り曲げる部分だけを薄くし、スムーズな動きが実現できる。ただ、中空構造の場合、曲げた際にFPCの内側と外側でかかる力が異なる。そのため、力の違いを考慮した上で位置や層の厚みなど、製品全体の設計をすることがカギとなる。メクテックは過去のデータだけでなく積極的にシミュレーションを活用している。シミュレーションにより精度の高い分析を行い、要求される耐屈曲性に対する最適解を導き出している。
技術本部グローバル技術統括部技術Central Operation課の嶺木雅大主事補は、「耐屈曲性FPCは、銅箔層に発生する微細なクラック(ひび)をいかに抑制するかが、肝となる。精密な測定で得たデータに基づき、最適な材料を選定し、構造を設計する。さらに、材料の組み合わせによる特性をシミュレーションで裏付ける環境があり、信頼性の高いFPCを実現している」と説明する。メクテックのさまざまな技術により、高い耐屈曲性を持つヒンジに最適なFPCが生まれ、高いシェアを獲得している。
材料、構造、設計で信号の減衰を抑制
映像など大容量のデータやリアルタイムでの通信利用も活発になり、通信に使用される電波は世代を追うごとに高周波になっている。高周波とは、1秒当たりの電波の波の数が多いことを指す。波の数が多いと短時間で送ることのできるデータ量が増えるので、大容量データ通信になるほど高周波を使うようになる。現在の第5世代通信(5G)は3.7GHzと4.5GHz、それにミリ波と呼ばれる24.25~71GHzを使い、次世代の6Gはサブテラヘルツ帯と呼ぶ90~300GHzを利用する。
当然、通信機器に使われるFPCも高周波に対応する必要がある。嶺木主事補は、「伝達したい信号を正しく伝えるために、信号の減衰(伝送損失)を抑える必要がある。そのために、高周波帯においてエネルギーが熱となって失われにくい材料を選ぶこと、加えて信号を流した際にFPCの受診部と送信部のコネクタ間を通る信号線の抵抗値『特性インピーダンス』を整合させる設計が重要になる」という。適切な材料を選定しても、特性インピーダンスが狙い値からずれてしまうと、伝達したい信号が反射等により減衰し、正しく伝わらない。「高周波になるほど、特性インピーダンスの不整合が信号の減衰に与える影響が大きくなる」(伊藤課長)特性インピーダンス整合は高周波ゆえのテーマなのだ。
嶺木主事補によると、材料の物性値、FPCの厚みや回路の層間の距離などが、特性インピーダンスの整合に大きく影響するという。特にフォルダブルフォンで使用するFPCは耐屈曲性も必要とされるため、中空構造を用いている。中空構造はフィルム間が接着していないことから、層間の距離が位置により大きく変わり特性インピーダンスの値が不安定になってしまう。回路の幅を調整するなど、この影響を抑えるように中空構造を考慮した全体の設計がここでも重要となる
特性インピーダンスの整合にもシミュレーションを繰り返し、ノウハウも組み合わせて最適な構造設計を見出すことができるのもメクテックの強みだ。加えて、生産工程でも、層ごとの貼り合わせ位置を厳格に管理するほか、通電検査を全品行うなど徹底している。メクテックでは、さらに高周波となるが、今後のニーズが見込まれる6Gに対応する製品の開発にも挑戦している。
独自技術の進化で新たな価値を創造し続ける
メクテックは培ってきた独自の材料配合や製造技術、シミュレーション分析で、FPCの製造をリードしてきた。従来得意としてきた大量生産から、ユーザーニーズに応じた特性を持たせる多品種少量生産にも幅を広げている。今後は自動車の自動運転や人と協働するロボットなど、エレクトロニクスが使われる機会がさらに増加することが見込まれる。こういった新しい価値の誕生を予見し、ユーザーや時代のニーズに合わせて社会に有用なソリューションを提供するため、効率的な製造技術やRoll-to-Roll工程の拡大、品質管理、設計など、メクテックは怠ることなく進化を続けていく。
(写真左)
伊藤 保之
メクテック株式会社 技術本部 開発部 新材料開発課 課長
メクテック(旧・日本メクトロン)入社後、材料技術業務に従事。新規材料の開発、導入のための評価から、現行材料の改善、FPCの信頼性試験まで、材料に係る業務全般に携わる。
(写真中央)
嶺木 雅大
メクテック株式会社 技術本部 グローバル技術統括部 技術Central Operation課 主事補
2014年に、メクテック(旧・日本メクトロン)に入社後、設計部署に配属、FPCの仕様検討・工程設計を担当。2020年から中国・珠海工場に5年間赴任、スマートフォン(折り曲げスマートフォン含む)等の電子製品のFPCの開発・設計に従事。現在はメクテック 技術Central Operation課にて、グローバルの技術統括・推進業務に携わる。
(写真右)
目黒 勝史
メクテック株式会社 技術本部 グローバル技術統括部
1988年にメクテック(旧・日本メクトロン)入社後、FPCの製造技術に携わる。2014年から8年間タイ工場に出向し、技術関係の改善及び日本との連携業務に携わる。2022年に日本に帰任し、現在はシニア社員として現行所属部署でこれまでの経験を生かしている。