接着剤の自社開発で差別化
NOKの主要製品の一つであるオイルシールは、基本はゴムと金属環、バネを組み合わせてできている。これら異なる材料を一体化するのに接着剤が用いられる。しかしゴムと金属といった異種材料の接着は難易度が高く、さらにオイルシールが使用される環境に対応する必要がある。例えば、100度C超の高温下でも耐熱性や耐油性などを備えつつ、接着耐久性が求められる。NOKはこうした性能や仕様を実現するため、接着剤を60年以上自社開発してきた。
難しい要求に応える
接着剤はくっつけたい物(被着体)同士を強力に固定するものだ。被着体によって接着剤の種類や接着方法が異なってくる。接着の原理は大きく分けて3種類あり、よく木材や紙の接着で使われる、表面の微細な凹凸に接着剤が流れ込み硬化して結合する「機械的結合」のほか、接着剤と被着体の原子が互いの電子を共有して結合する「化学的結合」、接着剤と被着体の分子が磁石のように引かれ合い結合する「物理的結合」といったものがある。
オイルシールの製造工程においてゴムと金属を接着する際に用いる「加硫接着」は、3つの接着原理が組み合わさったものだ。加硫成形を行う過程で、接着界面では分子間力による「物理的結合」と、化学反応による「化学的結合」が同時に起こる。複数の接着原理を同時に発現させるためには、接着剤の種類や接着処理条件、加硫成形条件(温度、時間、圧力等)など、非常に難しい制御が求められる。


NOKグループのメクテック(東京都港区)が製造するFPCは、NOKが長年積み重ねた接着剤のノウハウを生かしている。FPCは薄く柔らかいプラスチックフィルム基板に回路パターンを形成したプリント基板。繰り返し折り曲げられるためスマートフォンやパソコンだけでなくさまざまな電子機器に採用されており、小型化にも貢献している。FPCはフィルムに接着剤で銅箔を貼り合わせたものに電子回路を形成して、カバーフィルムを貼り合わせる。この時に接着剤が用いられるが、接着剤自体にも絶縁性を持たせる必要がある。さらに耐熱性、耐湿性、柔軟性、難燃性を備えることが必要であり、接着剤がFPCの機能に重要な役割を果たしていることが分かる。

自社開発で高性能を実現
NOKグループの接着剤開発は湘南R&Dセンター(神奈川県藤沢市)の材料開発部が担い、メクテック含めグループ全体の接着剤開発を行っている。現在自社で開発した接着剤の種類は、シール製品向けで約150種類、FPC向けで約15種類あり、材料開発部シール製品接着開発課の吉武勲課長によると、「NOKのような工業製品メーカーが接着剤を内製するのは珍しい」という。NOKは製品に最適な接着剤を自社開発することで、高い性能要求に応えているのだ。こうした技術の蓄積がNOKグループの開発力を支えている。
新たな接着剤を開発するのは、これまでにない特性が求められる時。FPCなどのような比較的新しい分野の接着剤開発を担う材料開発部High Performance接着開発課の小島渉課長は「最近はNOKが強みとする特性を生かした接着剤を開発し、新たな分野を開拓する使命も帯びている」と話す。
耐熱性を強みに新分野を開拓
吉武課長は接着剤の開発について「縁の下の力持ちであり、製品の性能を左右する目立つ立場でもある」と評する。製品の開発初期から関わりながら接着剤の開発をしている。
急激に変化する業界の動きが新たな接着剤のニーズを生む。自動車業界では電気自動車(EV)の普及が見込まれる。小島課長は「エンジン向けで必要だった耐油性に代わり、耐アルカリといった新たな特性が求められる」という。
近年はNOKグループ向けの開発だけでなく、他社への拡販も積極的に進めている。新しい要求に応えることは重要ながら、接着剤はライバルメーカーが多数ある。NOKは耐熱性と接着性を兼ね備えた技術こそが差別化できる独自技術と考えており、まずは耐熱性が求められる環境に向けた接着剤の提案を行っていく。
また、環境負荷低減も重要なテーマとなっている。有機溶媒を極力使わない接着剤や、接着時に熱を使わないようにする、といった方向性も欠かせない。試作や実験の回数を減らすためのデータベース構築など、開発の効率化も進めている。大学や他の研究機関とも連携しながら、広い技術の構築をしている。

(写真左)
吉武 勲
NOK株式会社 NOKグループR&D 材料開発部 シール製品接着開発課 課長
2008年にNOKへ入社後、現部署に配属され、接着剤やコーティング剤の開発を担当。2015年よりジョブローテーションの一環としてオイルシール事業部へ異動し、1年間にわたり製造技術の業務に携わる。2016年に再び元の部署に戻り、2023年より現部署の課長として開発業務を推進している。
(写真右)
小島 渉
NOK株式会社 NOKグループR&D 材料開発部 High Performance接着開発課 課長
2002年にNOKへ入社後、日本メクトロン(現・メクテック)に配属され、FPC用材料の導入開発を担当。2020年にユニマテックへ異動し、FPC用接着剤の開発に従事。2024年にNOKへ異動し、現在は課長としてFPC用接着剤や外販用接着剤の開発に携わる。
記事内のデータ、所属・役職等は2025年4月現在です。