潤滑剤でユーザーを支える NOKクリューバー
オイルシールやOリングで国内トップシェアを誇るNOKグループ。製品を通じ自動車のエンジンやパワートレーン(駆動装置)、建設機械などの油圧機器、複合機などあらゆる機械の安定した動作に貢献している。オイルシールやOリングのように封止する技術だけでなく、機械などの可動部の摩耗を抑える潤滑剤でも安定稼働に寄与している。潤滑剤を担うのはNOKクリューバー(東京都港区)だ。
潤滑剤は重要な機能部品
潤滑剤は回転軸や歯車のように金属などの固体が接触する部分の摩擦や摩耗を防ぐために使う。身近なもので説明すると、雨や雪の日にタイヤと道路の間に水の膜ができ、スリップしやすくなるハイドロプレーニング現象は、水の膜が潤滑剤の役割を持ってしまい、タイヤと道路の接地面の摩擦が減って滑りやすくなってしまうものだ。
潤滑剤は液体のオイルや半固体のグリース、固体のコーティングがあり、用途によって使い分ける。NOKクリューバー開発部アプリケーションエンジニアリング課の大谷明課長によると、潤滑剤がないと機械が早く故障してしまうため欠かせないものである一方で、やみくもに潤滑剤を使えば良いわけではないという。機械の性能をフルに発揮するには、特性に合った潤滑剤を適した形で利用する必要がある。
潤滑剤の重要性を示すデータがある。米国調査会社の調べでは、転がり軸受の破損原因は、潤滑剤に関係するものの割合が55%と約半数にのぼる。その破損の内訳を見ると、異なる潤滑剤の混入(25%)、潤滑剤の選定間違い(20%)といった、うまく潤滑剤を利用できていないことが理由だ。大谷課長は「機械の寿命を全うさせる上で、潤滑剤は非常に重要な機能部品と言える」と強調する。
そんな潤滑剤の成分はどんなものか。NOKクリューバー開発部ケミカル&トライボロジー課の田原昌樹課長によると、オイルはベースとなる油(基油)と添加剤で構成され、グリースはこれに増ちょう剤という半固形にするための物質を加える。基油は鉱油や合成油、フッ素油などで、添加剤は酸化防止剤、防錆剤などが主な原料となる。コーティングは構成が変わり、ベースとなるバインダー樹脂に添加剤と潤滑機能を持つ固体潤滑剤を加えてつくる。NOKクリューバーの場合は、約2,000アイテムから使用環境に合わせて適切な潤滑剤を選定・開発し、ユーザーに提案している。
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特殊な用途向けが強み
NOKクリューバーは、低温、高荷重、高温、真空下といった環境で使う「ニッチな分野であり、特殊な性能が求められる用途」(田原課長)の潤滑剤を得意とする。ほかにも配合設計技術、多品種少量対応、きめ細かく痒(かゆ)いところに手が届く技術サービスも特長だという。
NOKクリューバーは1976年に設立し、NOKが株式の51%、独フロイデンベルググループで特殊潤滑剤の世界的メーカーであるクリューバールブリケーションミュンヘンが同49%を出資している。もともとはクリューバールブリケーションミュンヘン製の潤滑剤を販売する代理店の業務が主だったが、国内ユーザー向けにカスタマイズする必要から開発部隊を持ち、今は独自に製品を開発し提供している。また、自動車や建機、ロボット、船舶、化学、半導体など多様な業界が顧客となる。
NOKグループのネットワークを使いつつ、潤滑剤の専任部隊として提案活動を進めている。近年は食品機械、風力発電といった用途も開拓している。
潤滑剤のニーズも変化
NOKクリューバーの場合、多種多様な業界の特殊な要求に対応しているため、潤滑剤にはマイナス40度Cの低温、200度Cの高温といった幅広い温度帯や低摩擦性、高い耐久性といった性能が求められてきた。田原課長は「今後はニーズが変化し、小型、高出力対応、低温性が重要になる」と説明する。
ニーズは小型、高出力対応、低温性以外にも広がっている。そうしたニーズの中で小型化、高効率化、さらにプラスアルファのニーズに応えた製品が「セルフロックグリース」だ。自動車のパワーウィンドウに使う潤滑剤として独自開発した。
セルフロックグリースは、パワーウィンドウの誤動作を防ぐために開発されたもの。かつてのパワーウィンドウは、手で強引に押し下げると窓を開けられることや、ガラスが自重で下がってしまうといった問題があった。セルフロックグリースには、モーターからの力は伝えやすく、窓からの力はロックさせるという相反する特性が求められる。すなわち、機構が動いているときは摩擦を軽減し、静止しているときは摩擦を高くすることが求められる。彼らは添加した固体潤滑剤の特性を利用して摩擦力をコントロールすることができたという。添加剤の種類や固さ、粒子の形状、量などの工夫で実現できた。
今後は、相反する性能を持たせることができる技術力をアピールするほか、セルフロックグリースの用途開拓を進めていきたいという。
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ユーザーのニーズに応える
潤滑剤は各種機械を支える重要な機能部品である一方、それぞれの機械に合わせた潤滑剤でないと効果を発揮できない。田原課長は「ユーザーごとに機械の部品構造や力の掛かり方が違うため、最適な潤滑剤のチューニングが必要となる。そこに私たちが持つ潤滑剤の開発力が生きる」と言い切る。ただ、潤滑剤はユーザーと一体になった開発が必要な半面、最適化することが不可欠なことをユーザー側が理解していないことが多いという。潤滑剤の重要性をユーザーに伝え、コミュニケーションを深めていくことが課題となる。
また、環境負荷が少ない製品開発も新たなテーマだ。NOKクリューバーは、生分解性の潤滑剤やバイオマス原料由来の製品開発を進めていくという。大谷課長は「潤滑剤を使った製品のメンテナンス頻度を下げることも差別化の一つ。そうした利点を訴求し、一般産業機械に当社得意の高機能グリースを広めたい」と意気込む。

(写真左)
田原 昌樹
NOKクリューバー株式会社 開発部 ケミカル&トライボロジー課 課長
固体被膜潤滑剤、ゴム用表面処理剤の開発を担当した後、グリースやオイルの製品設計を経て、2024年10月にケミカル&トライボロジー課へ異動。現在はサステナブルな新素材を用いた潤滑剤の開発や、NOKグループ内との共同開発案件を担当している。
(写真右)
大谷 明
NOKクリューバー株式会社 開発部 アプリケーションエンジニアリング課 課長
入社後は開発部にてスイッチやギヤの機械要素向けトライボロジー研究や技術サポートを担当。2016年より6年間営業企画部で企画業務に携わる。2022年10月より開発部に戻り、現品調査や顧客提案を通して顧客要求の見極めなどアプリケーションエンジニアとして従事する。
記事内のデータ、所属・役職等は2024年10月現在です。