主要材料のアクリルポリマー、グループ力で差別化
NOKの主力製品であるオイルシールをはじめとするシール製品には、合成ゴムが使用されている。これらのシール製品は自動車部品に採用されており、耐油性や耐熱性が必要とされることから、合成ゴムにはこれらの機能を兼ね備えたアクリルゴムが多く採用されている。アクリルゴムの主構成分はアクリルポリマーであり、オイルシールなどの性能を決める重要な役割を持つ。NOKグループのユニマテック(東京都港区、菊地洋昭社長)はアクリルポリマーの開発や製造を手がける。主なユーザーである自動車業界の事業環境が変化する中、グループの強みを生かしてニーズに応えている。
オイルシールの性能を決めるアクリルポリマー
一般的には日用品や化粧品に使われるアクリルポリマー。工業用途でも多く利用され、それもホースや接着剤、コーティング剤などさまざまだ。ユニマテックは自動車用オイルシールやガスケットの材料としてアクリルポリマーを供給している。アクリルポリマーの開発当初はシール用途中心の開発を行っていたが、これらの知見を生かし、現在は自動車ホース用グレードも開発、ホース製品用途としても同社のアクリルポリマーが広く採用されている。
長年アクリルポリマーと関わるユニマテック エラストマー技術部の佐野洋之部長によると、例えばオイルシールの金属部品を除いたゴム部分では、6から7割がアクリルポリマーで構成される。ただ、他の添加剤などの材料も製品の性能を決める重要な役割を担う。そのためNOKの材料開発部と密に連携し、オイルシールの材料配合やアクリルポリマーの開発を進めているという。
耐熱、耐油、低温の性能が重要
自動車エンジン関連のシール製品に要求されるアクリルポリマーの代表的な特性は、耐熱性、耐油性、耐寒性の三つ。オイルシールがエンジンやクランクシャフト、トランスミッション(変速機)で多く採用されることからこれら三つの特性が重要となり、ニーズに応じてバランスを取ることになる。エンジンで使うオイルシールは150度Cから170度Cほどの温度帯で使う上に、油に強いことが求められる。また、自動車は寒冷地での利用があるため耐寒性も不可欠だ。バランスのとれたアクリルポリマーの開発には最終製品の用途に対する知識と、長時間使っても故障しないという信頼性を担保する開発力が重要になる。ユニマテックだけで成り立つものではなく、グループの総合力が欠かせない。
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アクリルポリマーの化学構造は、主鎖が炭素で構成され、二重結合を持たない構造をしている。また、側鎖には種々のアルキルエステル構造がつながる。耐熱性、耐油性、耐寒性のバランスはアルキルエステル構造の成分で決まってくる。佐野部長は「ユーザーがどんな特性を求めるか、ある程度先読みして開発を進めている」と胸を張る。ニーズの変化などユーザーの声を集めるには、サプライヤー、完成車メーカーとのパイプが太いNOKのマーケティング力が重要となる。そもそも、オイルシールを製造するのもNOKだ。ユニマテックのアクリルポリマーを使ってオイルシールとして製造した際にどういった性能をもった製品になるか、という知見はNOKとの密な連携によって得られる。NOKの開発部隊と協力しながらアクリルポリマーを開発することになる。
現状、ユニマテックが持つアクリルポリマー主力製品はシール製品用途、ホース用品用途として、それぞれ主力機能を狙った5品目(10グレード)を用意しており、それ以外にも種々の要求に応じた品目を多数所有している。
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グループの力を生かしつつ、技術力を高める
グループ会社であるNOKが製品評価やオイルシールの配合設計を行う。ユニマテックにとってこれが利点であり、「ユニマテックが『これはいい』と思って開発したアクリルポリマーでも実はいまひとつでここがダメでした、といったフィードバックがすぐに来る」(佐野部長)ことが開発力の強化につながる。
併せて、ポリマーメーカーとして安定供給体制の構築が必要不可欠となる。ユニマテックのアクリルポリマーの生産体制は第一拠点:北茨城だけではなく、第二の拠点としてシンガポールにも生産拠点(ユニマテックシンガポール)を構築することでBCM体制を整備、蓄積された技術力を用いて両拠点から安定生産体制を稼働させている。
また、グループ外への販売、特にホース用途についてはポリマーと合わせて顧客のニーズに合った配合を提案することも重要である。このようなケースにおいては、機械学習を取り入れた配合予測手法なども活用することで効率化かつ迅速な配合提案のスピードを上げている。今後は、データサイエンスの活用で開発力を高めるマテリアルズインフォマティクス(MI)にも佐野部長個人として関心を持っているという。
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自動車業界の環境変化に備える
自動車業界はいま大きな変化を迎えている。部品点数が少ない電気自動車(EV)の普及が、既存のサプライチェーン(部品供給網)を変えることになると言われる。中でもエンジン部品は影響が大きいとされ、エンジン部品の専業メーカーは成り立たなくなる、という懸念が広まっている。
エンジン用のオイルシールを得意とするNOKも、グループをあげて新市場の開拓に挑む。ユニマテックも新規分野の開拓が重要なミッションとなっている。現在、新分野への展開を見据え、「医療やバッテリー分野などをターゲット」として、調査研究を進めているという。
EVの普及が進んでもすぐにエンジンがなくなるわけではない。10年、20年先といった中長期的な視野で大学などと協力しつつ、新規分野を見いだしたいと意気込む。

佐野 洋之
ユニマテック株式会社 エラストマー技術部 部長
NOK入社後、ゴム材料の開発を担当し、NOKで扱う種々の品目の材料開発に携わる。その後、材料研究・材料分析業務に従事したのち、2019年にユニマテックに異動。ポリマーを使う側からポリマーを作る側となり、これまでに得た知見を生かした開発に取り組む。
記事内のデータ、所属・役職等は2024年10月現在です。