微細なものづくり技術が社会の支えに――燃料電池開発への挑戦(前編)

気体の漏れを抑制するシール技術が水素社会を支える

シーリング用ゴムの実装にはマイクロメートル単位での精度が必要

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この図は、バイポーラ型セパレータの構造を示しており、各層の役割とガスケットの機能が記されています。上から順に、Caセパレータ、Anセパレータ、GDL、MEA・サブガスケット、GDL、Caセパレータが配置されています。ガスケットはスタック内外での漏洩を防止します。また、スタック内のH2OとO2、H2OとH2、H2とO2、H2とH2O、O2とH2Oの間での漏洩を防ぎます。さらにスタック外のH2O、H2、O2が大気に漏れないようにします。ガスケットの総長さは、スタック1台あたり約1kmです。図の右下には、絶縁性とバイポーラ型セパレータ間の短絡防止についても記載されています。図はスタックが300枚のセルで構成されていることを示しています。
図1 燃料電池の構造とセルシールの仕組み

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この画像は、燃料電池の動作原理と各層の役割を示す図です。中央には膜・電極接合体(MEA)があり、その左右にカソード(Ca、正極)とアノード(An、負極)が配置されています。アノード側で水素(H2)が水素イオン(2H+)と電子(2e-)に分解されます。水素イオンはMEAを通過し、電子は外部回路を通ってカソードに移動します。カソード側では酸素(O2)と水素イオン、電子が結合して水(H2O)が生成されます。MEAの周囲にはガス拡散層(GDL)、触媒層、固体高分子形電解質膜(PEFC)、サブガスケット(樹脂フィルム)が配置され、それぞれの層が燃料電池の効率と安定性を保つ役割を果たしています。セルシール(ガスケット)は水素、酸素、水蒸気、冷却水の漏洩を防ぐために使用されます。
図2 燃料電池を構成するセルの構造とセルシールの役割

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この画像は、商用車のガスケットに関連する難しさを示す3つのポイントを説明しています。Point.1は工程の難しさを示し、ガスケットの取り付けには高度な精度が必要であることを強調しています。Point.2は形状の難しさを説明し、ガスケット総長は商用車1台で2kmに及び、その高さは0.8mmと非常に細長いことを示しています。位置決め精度はマイクロメートルオーダーが求められます。また平面の積み重ねにおいて、300枚のスタック(商用車では×2)が必要です。Point.3は量産の難しさを強調し、ガスケット総長は乗用車で1km以上、商用車では2km以上に達することや、その工程とリーク試験の重要性を示しています。右側の図では、商用車1台分の2kmのガスケットとその位置決め精度が説明され、レールの高さ(11cm)を東京から名古屋(275km)の距離に沿って並べる際に5cmのズレも許されない高度な精度が必要なことが具体例として示されています。
図3 セルシールの設計におけるポイント

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この画像はゴム分子鎖の間をガス分子がすり抜ける透過漏れの現象とその対策を示しています。上部には「ゴム分子鎖の間をガス分子がすり抜ける透過漏れは、完全に防ぐことはできない。ゴムの特性を把握し、ガスケットの断面形状を工夫することで低リークの設計を行う。」との説明文が記載されています。画像の下部には三つの連続した図があり、左から右に向かってゴム分子鎖の密度が増し、ガス分子の透過が難しくなっていく様子が視覚的に示されています。矢印がそれぞれの図をつなぎ、ゴムの分子構造の変化のプロセスを表現しています。
図4 ガスケットで防がなければならない透過漏れ

(後編につづく)

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