より強く、安全に、サステナブルに。ゴムを扱いこなす技術力
― 価値創造の源泉を探る ゴム素材編 パート2 ―
力を加えると伸縮し、力を除くと元の形に戻る。そんな特性を持つゴムは、固体のように見えて液体に近いユニークな物質です。NOKではその構造を幅広いスケールで分析して研究を進めるとともに、より安全でサステナブルなゴム製品を世に送り出す新技術も開発しています。さまざまな取り組みを、ゴムにその特性を与えるに欠かせない「架橋」を軸にご紹介しましょう。
ゴムに強度や耐久性をもたらす「架橋」
ゴムはたくさんの分子が連なった鎖状の分子、すなわち高分子(ポリマー)が複雑に絡み合って形成されています。私たちが、「ゴムらしい」と感じる特性である伸び縮みする「弾性」を付与する「加硫」と呼ばれる加工をする前のゴムは、弾性が少なく、粘土のような状態です。分子のレベルで説明すると、分子が物理的に絡み合っているだけで、化学的な結合(架橋)はありません。これは例えるなら毛糸が絡まっているような状態で、引っ張ったりすると簡単にほどけ、元の形には戻れません。ポリマーに配合材を練り混ぜて高温で加熱する加硫工程を経ることで、化学反応によってポリマー同士が橋を架けたようにつなぎ止められ、互いに動きを制限するようになります。これを架橋構造といいます。引張や圧力に強く、かつ高温や紫外線など過酷な環境条件にも耐えられるゴムの出来上がりです。
架橋構造がほどける「劣化」に挑む
ゴムの架橋構造は、高温や紫外線、化学薬品にさらしたりすることで次第にほどけていきます。すなわち劣化です。ゴムはモビリティや機械の重要な部品を担うもの。弾力が低下して硬くなったりひび割れたりすると、機能を果たすことが難しくなり、事故や業務停止にもつながります。NOKでは医療用MRI(Magnetic Resonance Imaging:磁気共鳴画像)と同様の仕組みであるNMR(Nuclear Magnetic Resonance:核磁気共鳴)を用いてゴムの分子構造を可視化し、架橋の状態や分子の動きやすさを確認することで劣化のメカニズムを探っています。
もう一つ、化学反応に焦点を当てた分析の研究も行っています。コンサートの応援グッズとしておなじみのサイリウム。使用前に軽く折り曲げて内部のアンプルを割ると、2種類の液体が混ざり合って化学反応を起こし、光が放出される仕組みです。化学発光と呼ばれるこの光の状態を観測すると、化学反応がどの程度起こっているのかが分かります。
NOKはこの化学発光に着目しました。実は、ゴムは劣化する際に肉眼では捉えられないほどわずかに光を放ちます。これを観測することで、架橋構造の変化による劣化を捉えられるようになり、劣化防止策の効果を検証することも容易になりました。
「架橋しないゴム」でサステナブルな社会に貢献
ゴムの機能の鍵を握る架橋構造。しかし古いゴム製品をリサイクルする際にはネックになります。まずは脱硫(硫黄分の除去)をして架橋を外し、次の用途に合わせて再度加硫するプロセスが必要となるのです。
サステナブルな社会の実現に向けて、近年は再資源化しやすいモノづくりが求められています。時代の要請に応え、NOKが開発したのが次世代のゴム「リンクスラバー」です。従来の架橋の役割をイオン結合という化学結合に置き換えたものです。陽イオンと陰イオンが静電気的に引き合うことでポリマー同士が結びついているため、わずかな切れ目や隙間ならば、圧力を加えると再び結合するという自己修復性を備えています。古いゴム製品の再成形、再利用をしやすくなり、産業界におけるサーキュラーエコノミー(循環経済)に貢献します。
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一筋縄ではいかないゴムの特性を扱いこなすため、さまざまな角度から内部構造を研究し、時代の要請に応えて新たな技術を開発する。このたゆみなき挑戦が、NOKのモノづくりの信頼性を支えています。